「ルパン三世 PART5」
連続インタビュー企画【第3弾】
-
沢城みゆき(峰不二子役)
[ 前編 ]
■沢城さんが峰不二子を演じて、今年で7年目。世間でもすっかり「沢城みゆきの不二子」が定着しました。当初は「大女優の鞄持ちをしているような気持ち」とおっしゃっていましたが、心境の変化はありましたか?
【沢城】 もう7年目ですか。いつまでも鞄持ちなんて言ってられないですね。不二子さんに関しては『LUPIN the Third ~峰不二子という女~』あたりから、前任の増山江威子さんが演じていらっしゃったものを踏襲すると考えすぎなくていい、という方針にグラデーションしています。かといって「いまの不二子は私の色」というわけでもない。毎回作家さん、演出さんそれぞれの不二子像があるので、オファーに沿って不二子を演じて、リセットしてはまた新しいオファーに沿って演じる。一回一回仕切り直しているので、7年積み重ねたという印象はないんです。
■それは作品やシリーズごとにということですか?
【沢城】 話数ごとです。もともと、増山さんの不二子を観ていたときから、監督ひとりひとりにこだわりの「俺の不二子像」があるのを感じていたんです。一貫性があるとすれば、それは増山さんの音色のみ。だから「私の不二子像」を決めすぎないようにしているんですね。
■なるほど。今作PART5は前作PART4からあまり間をおかずに制作されています。ルパンの故郷ともいえるフランスが舞台で、現代的な設定が満載。キャラクター像や関係性の掘り下げも大胆で、浄園クリエイティブプロデューサーによれば「正ヒロインは不二子」です。それらを含め、演じてみた印象はいかがですか?
【沢城】
スタートするときには、舞台はフランスということだけを聞いていました。そしてエンディングについて「大野雄二さんが不二子ちゃんでどうかと言っている」というだけの情報でした。
いざ収録がはじまって――イタリアが舞台のPART4は、ダ・ヴィンチがよみがえっちゃうような、どちらかというとファンタジー色の強い作品だったのに対して、今回は現代の最先端の世界にルパンたちが配置されている。おとぎ話からリアルへの振り幅が楽しみだな、という印象でした。不二子が正ヒロインと聞いたのは、収録も中盤の頃だったと記憶しているのですが、まさかここまでとは思いませんでしたね。
■今回の不二子は、印象的なセリフも多かったですよね。
【沢城】 ハイライトになるようなセリフも多かったですね。終盤にかけては、「私の不二子」みたいな一貫性を持っていないと言えないようなセリフもどんどん増えてきて困ったぞ、と。 ルパン役の栗田貫一さんって、今そのとき、相手に対して嘘がない演技をする方なので、私もずいぶん前から(役を作って)持ち込むということをやめていました。栗田さんのルパンに言われたセリフに、シンプルに反応するという方法でやっていたんですね。でも今回は、それではちょっと追いつかない。逆に、栗田さんに心を明け渡さないで演じなきゃいけないシーンもあったので、たくさん迷いましたね。
■現時点で第15話まで拝見しましたが、ルパンと不二子の関係性、かなり踏み込んでいますよね。「不二子、おまえは俺の……」とつぶやくルパンが印象的でした。
【沢城】 そうですね。でもそこまではまだ「昔、なにかあったのかな」と匂う程度ですよね。
■え、まさかまだまだ明かされちゃうんですか!?
【沢城】 そうなんです。私自身が「不二子さんのこんな顔、見ていいのかな。見てはいけない気がする」と戸惑い、試行錯誤しながら、あっというまに(収録が)終わった感じでした。
■それはとても楽しみです。そもそも不二子には、いつも明かさない部分があって、ルパン・ファミリーとの距離感も独特ですものね。
【沢城】
不二子は、いろんな顔がある人です。ほとんど一貫性はない。世間では、峰不二子といえば必ずセクシーというイメージが付随すると思いますが、それって外側だけのイメージですよね。では、不二子に対して男の人が色っぽいって感じる真の要因って何かな、と考えたとき「ちょっと近づけない」「高嶺の花」っていう距離感のことだと気づいたんです。磁石のS極とS極が離れるように、誰とでも等距離をくずさない。増山さんの演技を聴いていても、誰とでも等距離。そこだけは、一貫性として持っているんですよね。スタイルがいい、胸があるということだけじゃない。距離感は、彼女の「香るセクシー」の正体なのかもしれません。私自身は男女問わず、好きになるとしっぽを振っちゃうタイプなので、とてもじゃないけどなれないんです、あの感じ。
一度、増山さんにお会いする機会があって、とても印象的だったのが「不二子は盗むことが好きだから、盗むことが終わったらはい、おしまい」という言葉でした。宝石、絵画、人の心。なんであっても「盗むまで」が好きで、そこへの執着はすごいんです。でもそれを手にしたとき、その手の中にあるものに対しては興味を失うわけです。
だから私もいつもマイク前で「これがほしい」ということしか考えてないんですね。だから『ルパン』のインタビューでいつも困るのは、ストーリーとか、周囲のキャラクターにあまり興味がない状態で演じているので、うまく答えられない点です。「どうでした?」と言われても、不二子は「どうでもいいわ」と思っているから、沢城みゆきとしてあらためて鑑賞しないと答えられない(笑)。
■ほかにもそういう経験って持っていらっしゃいますか?
【沢城】 歴代やってきたキャラクターの中で、不二子だけです。ほかのキャラクターはだいたい隣にいて、あなたの痛みがわかるよ、大事にしているものがわかるよ、と感じます。キャラクターを幸せにしてみせる、と思ってマイク前に立つんですけど、不二子にはそれが全然ないんです。
■そのスタイルが、今回は揺らいだわけですね。
【沢城】 『ルパン』の物語の主線に、不二子さんが「精神的に」入りこんでくるのはじめてなんですよね。これまでは、基本的にはサイドにいて、そこに彼女の盗みたいものがある場合のみメインに顔を出すというスタンスの人だったので。精神的に、ルパンにぐっとつめよるような感じになっていくのが新鮮でした。
■収録時に「周囲にあまり興味がない」気分になるように、沢城さんにとって不二子は、入りこめるキャラクターなのでしょうか?
【沢城】入りこむというより……なりきっている気はします。差異の説明が難しいんですが、収録では、相手役に言われたことに反応するっていうことだけをしているんですけど、それってなりきっていないと返せないんですよね。
でも、心に入りこめるかというと全然違う。不二子をやらせていただくことになったとき、彼女は同族嫌悪で、自分からいちばーん遠くにいる女として私を選んだんだな、という気がしたんです。そのくらい私と彼女は遠いんです。でも、遠くから盲目的に「不二子さん、いまいきます!」と必死で自分を追いかけてきてくれる人がいい――ちょっとルパンに近いですよね(笑)。そんな人として、私は選ばれたんだなと思っています。なりきるなんておこがましいけど、でもそばにいて全部見てますよっていう。物まねの人がよく言う「好きすぎてまねしちゃう」に近い感覚ですね。
■以前インタビューで、アミ役の水瀬いのりさんも不二子への憧れを語っていらっしゃいましたが、不二子はある意味、女性にとってのヒーローでもありますよね。「男の美学」がフィーチャーされがちな『ルパン』の世界における、「女の美学」の象徴。「いい女っていうのはね、自分で自分を守れる女よ」などの名言も残している。私もそうですが、「ルパンのキャラクターのなかでだれが好き?」「不二子!」という女性は多い気がします。
【沢城】私の感じている不二子さんの最大の魅力は、「自分で自分を守れる女よ」と言いながら、ここぞというときに男に頼れることです。彼女の独立心だけをフィーチャーすると、宮崎駿監督が描いた『カリオストロの城』の不二子になるんです。あれは、ほとんど男。たいていの男性は、あれを峰不二子とは呼ばないんですよね。そして、その延長線上に『峰不二子という女』があると思います。
では、なにが女性から見て魅力的なのかな、と考えると、たぶん最後の最後で譲れたり、どこかまあるく見える部分なのかもしれません。女の子って、男性が考えるより意外と、甘えることや、かわいいだけでいることに対して拒否反応を持っているじゃないですか。それが普通の女の子だと思うんですけど、それじゃいけないって思ってることを奔放にやってしまう不二子に「いいな、あんなふうに振る舞えたらな」と憧れるんだと思うんですよね。
私もどっちかというと、刀を振りかざしてしまうタイプです。でも不二子は素手なのに――男の人を傷つけないのに最強っていう不思議なパワーを持っているんですよね。
■第13話からはじまる第3幕では、不二子は女教師として登場。『カリオストロの城』を彷彿とさせる雰囲気もあります。決定的に違うのはアミとの共闘です。ルパンを助けるために少女と協力しあう、という関係性も新鮮でしたし、「相棒」と声をかけられたアミが赤面するシークエンスも印象に残りました。
【沢城】あのあたりから不二子に、やっとアミの姿が見えてきたんですよね。彼女、理屈で動く人は眼中にないんです。アミのハートが動くのを感じて、ようやく視界に入ってきたと解釈して演じていました。だんだんおもしろくなってきたんですよね。アミがようやく自分自身のことばでしゃべるようになってきたから。
だから特別、アミに情があるとか、導いてあげようとかいう気はないんです。「いま人を殺してしまったのかも」と逡巡するアミに対して、めずらしく言葉をかけてあげるのも、「あなたはいま私たちの命を救った。誰かの命を奪ったのではなく、救ったんだ」という正論を言っているだけ。状況に対して素直に言葉を発しているだけなんです。それはやはり不二子の一貫性だと思うんですね。でももしかしたら、アミから見た不二子は、また全然違う人に見えるかもしれませんね。
(インタビュー/執筆:髙野麻衣)
※今回掲載した前編に加え、未公開の後編を含めたインタビュー全文を2018年9月19日(水)に発売となる
<Blu-ray&DVD Vol.3>封入特典:特製ブックレット内に掲載!