「ルパン三世 PART5」
連続インタビュー企画【第1弾】
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矢野雄一郎
(監督) -
大河内一楼
(シリーズ構成) -
浄園祐
(クリエイティブプロデューサー)
[ 前編 ]
■どのような経緯で、大河内さんはシリーズ構成に参加されることになったのでしょうか。
【大河内】 以前、『伏 鉄砲娘の捕物帳』という映画に参加したときに御一緒した企画開発担当の鈴木(常泰)さんが誘ってくれたのがきっかけです。『ルパン』は好きで観ていましたので、やりがいを感じました。大きくて長いシリーズなので、実際に書くのは大変だろうとも思いましたけれど。
■『PART5』の舞台はフランスから始まります。なぜフランスだったのでしょうか。
【浄園】 『PART5』は、『PART4』からそれほど間が空いていないこともあって、僕の中ではワンセットのような気分があるんですよ。『PART4』を観てくださった方に、地続き感のあるドラマを感じていただきたいという気持ちもありました。『PART4』の舞台であるイタリアでばらけたルパンたちが今もヨーロッパにいて、今度はフランスを拠点にしているのは流れとしてもいいんじゃないかと。
【大河内】 それで、ルパンのジャケットの色は『PART4』と同じ青なんですね。
【浄園】 どちらの制作現場もテレコム(・アニメーションフィルム)で同じということもありますし、統一性のある部分があったらいいなというのはありました。
■序盤の1~5話では、ルパンがSNSを駆使する現代らしいエピソードが描かれていました。
【大河内】 僕が今回の話をもらったとき、今作るのならば「今の『ルパン』」がいいなと思ったのが、ひとつあるんですよ。リメイク作品って、作品ごとにいろいろな理由や目的があると思います。そのなかで『ルパン三世』の場合は、「ルパン」が好きな方に観ていただきつつも、まずは今まで観たことがない若い方に観てもらえるようなものになるといいなと考えたんです。だとしたら舞台は現代になるし、当然ルパンはスマホを持っているに違いない。もともと最先端の科学道具を使ったり発明したりしていたルパンですからね。序盤がデジタルっぽい感じになったのは、そういう理由があります。
【矢野】
電脳での戦いみたいなものを描くと最初に聞いたときは、ルパンのキャラクターに合わないのではないかと少し思ったのですが、実際に大河内さんとお会いして話したら、そういうことではないのだとすぐに分かりました。今いる人間として、ルパンを魅力あるキャラクターとして書こうとなさっているんですよね。それならば、今まで通りの感じでやって大丈夫なんだなと安心して取り組ませてもらいました。
『PART5』では絵的にいろいろ試させてもらっているところがあって、大きなところでは線の感じを変えています。『PART4』では強弱のある線でしたが、『PART5』ではもう少しスッキリした線にしています。今回は「現代」を描くということで、そうした匂いがでるようになればという狙いもありました。
■矢野監督、浄園クリエイティブプロデューサーのお2人は、大河内さんとタッグを組まれて、いかがでしたか。
【矢野】
『コードギアス(反逆のルルーシュ)』などを書かれている方なので、怖い方だったらどうしようとちょっと思っていたのですが(笑)、お会いしたら優しそうな方でホッとしました。脚本もスッと入っていける感じが凄くあって、私のほうからは「これでお願いします」といつもお返ししていました。
【大河内】
矢野監督を始めとするスタッフの皆さんは、基本『PART4』を作られている方々なんですよ。そのなかで、僕だけが『ルパン』初心者みたいな感じだったんです。しかも、最初の企画書に「(今までの『ルパン』から)変える」みたいなことが強めに書いてあったから、けっこう警戒されていたようで、最初の顔合わせはメインスタッフの方に囲まれるようなかたちになって、ちょっと怖かったです(笑)。
【浄園】 その企画書は、大河内さんが最初に考えられていたことがまとめられていて、「新生『ルパン』とはこうです」みたいなことが書かれていました。それが現場にもまわってきて、テレコムには長く『ルパン』をやっている人がいるのでビックリしたというか、今振り返ると警戒したようなところがあったと思います。
【大河内】 そんな雰囲気のなかで、「まずは話を聞こうよ」と言ってくださったのが矢野監督で、とても有難かったです。
【浄園】 今は現場のみんなが大河内さんのファンなんですよ。みんな大河内さんの脚本を面白いと言っていて、現場のテンションも高く、プロデューサーとして凄くいいなと思っています。これは本当に大河内さんの功績が大きいです。長く続いているタイトルに今アプローチするためには、こういうやり方がいいんだと勉強させてもらった思いで、つい最近も大河内さんの脚本があがったときに、「もっと早く出会いたかったです」とメールさせてもらいました。これからも続いていく『ルパン』にとって、分岐点になるようなシリーズになるのではないかという手ごたえを感じています。
【大河内】 『ルパン』って難しいですよね。まず、これまで様々なオタカラを盗んできて、何を盗んでも過去作とかぶってしまう。キャラクターも固定されていて、新キャラには頼れない。そのうえで、これまでのシリーズを全肯定したものにしたかった。だって、僕をふくめたみんなが『ルパン』を大好きなんですから。
■実際に『ルパン』の脚本を書いていくなかで、どんなことを感じられたでしょうか。
【大河内】 『『ルパン』は難しいと今言いましたが、ルパンはキャラクターが物凄く強いんですよ。ストーリーなんかなくても、ルパンたちが話してるだけでも、だいたい面白く観られてしまう。そういう意味では簡単とも言えますが、そこに甘えてお話が負けてしまうと、好きな人しか残らなくなってしまって、5年後、10年後に首を絞めることになっていくことになります。今回の『PART5』では、『ルパン』を知らない人にも、お話を面白いと思ってもらうなかで、ルパンや次元たちを好きになってもらおうというのが目標です。
【矢野】 大河内さんの脚本は、許容量がとても広いんです。スタッフにいろいろなことを想像させてくれるものになっていて、その内容にあわせた画面や色を考えながら作っています。エピソードごとに舞台が変わることもあって、設定の量も半端じゃないぐらい必要で、「普通のテレビシリーズではこんな量はないよ」と言いながらも、みんな凄く楽しそうにやっています。
【大河内】 矢野監督は、演出家として凄くオールマイティな方なんですよ。今回のルパンは、シリアスからギャグ、ミリタリにサバイバルと様々な色があるんですが、いつも「分かりました」と脚本を受けとってくれます。絵にする都合もあるだろうに、こんなにホイホイ受け取ってしまって大丈夫かなと思うときもあるんですけど。
【矢野】 (笑)。
【大河内】 僕の脚本はけっこう情報量が多くて、普通にやると「30分には入らない」と言われることが多かったんです。でも、矢野監督からは、そういう言葉が一回もでてこなくて、「どうなっているのかな」と思いながら1話を観たら、僕が書いた脚本よりもカーチェイスが増えていて、よく入っているなと驚きました。
【矢野】 分量の問題は、全然気にならなかったですね。最終回は「ちょっと多いかな」と思いましたけど(笑)。あと今回はSNSへの書き込みなどで、文字がバッと流れていくところが多くあって、その辺りのさじ加減はなかなか難しかったです。視聴者に画面の文字を読んでもらうためには動かしてはいけない。でも、そんなに長くSNSの絵を映していても画面的にはつまらないだろうなと、その辺りは考えました。
【大河内】 ヒロインのアミ・エナンが最初から可愛いのも演出の力だと思います。引きこもりのハッカーという設定ですし、セリフのうえでは最初はそれほど可愛くなくてもいいと思っていたんですけど、ルパンの出会いから凄く可愛く描かれていて。
【浄園】 アミちゃん、可愛いですよね。水瀬いのりさんの演技も相まって、回を追うごとにどんどん目が離せなくなってきています。彼女がいることでルパンの新しいあり方がでてきていますし、不二子の存在も凄く際立つようになりました。新しいキャラクターが入ることによって、こういうかたちで既存のキャラの新しい魅力が確立できるんだなと感じています。『PART5』は、そうした采配も凄く上手くいっていて、新しいチャレンジをしつつ、どこを切っても『ルパン三世』というものになっていると思います。
※今回掲載した前編に加え、未公開の後編を含めたインタビュー
全文を2018年7月25日(水)に発売となる
<Blu-ray&DVD Vol.1>封入特典:特製ブックレット内に掲載!