「ルパン三世 PART5」
連続インタビュー企画【第5弾】
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浪川大輔(石川五ェ門役)
[ 前編 ]
■『PART5』のクライマックスで、五ェ門とルパンが本気で対決します。こういうシチュエーションが登場するのも久しぶりだと思いますが、いかがでしたか。
【浪川】 『ルパン』っていう作品は、時代時代でいろんな顔を見せてきたものですよね。でも今回は、台本をもらって「いよいよ、やばいかもしれない」と思いました。このまま五ェ門は離れていっちゃうのかな……というぐらいの重みを感じた内容でした。これまでも「女絡みだから協力しない」ていうぐらいの距離感はありましたけど、ここまで関係性が崩れるのは、なかなかなかったんじゃないかなと。『PART4』の五ェ門はちょっとかわいい雰囲気も多かったという印象だったので、余計にハードに感じました。
■そもそもはヒトログに「ルパンの手下」と書かれたことが発端でした。
【浪川】 いかにもSNSの時代らしいエピソード。今回の『PART5』は、SNSがかなりフィーチャーされてましたけれど、SNSって、ひとつのいい意見よりも、そのほかのマイナスな意見のほうがどうしても目立ってしまうんですよね。そういう今の時代らしいポイントを、非常にうまく使っていました。しかも五ェ門は昔ながらの人なので、その辺、ちょっとデリケートなんです(笑)。で、素直に受け止めてしまったかなと。ただ、ヒトログの発言はあくまできっかけですけれど。
■五ェ門の中に「もともとルパンにとって自分とは何か」を考える気持ちがあった、ということですか?
【浪川】 普段のエピソードって、五ェ門の出番は決して多くないんです。後半ちょこっと出てきて、ルパンを助けていなくなるみたいなことが多くて。だから僕も、もっとサバサバとした気持ちで助けているのかなという印象を持っていました。でも、今回のエピソードで、そうではなかったんだなと。そういう意味では、あそこまで五ェ門のプライドに迫ったエピソードを描いてくださったということは、とてもありがたいことだと思いました。口数は少ないけど、ある程度仲間と思っている気持ちと、下に見られたくはないという気持ちが入り混じっているんだな、と。改めて五ェ門を深く知った気持ちです。
■ルパンに斬りかかる時に、イメージの中で自分自身と対決をします。
【浪川】 五ェ門は、そういう人なんです。まず自分との勝負がある。そこに決着が着けば、なんでも斬れる。そこに迷いがあると、強くなれない。だからあそこが五ェ門らしいなと思いました。
■素朴な質問ですが、浪川さん自身は、五ェ門がルパンと勝負したら勝てると思っていますか?
【浪川】 これ、僕も考えたことがあるんですけど(笑)、真正面からやったら勝てると思います。
■おお、勝てますか。
【浪川】 ただ、真正面にいけない気はします。ルパンってすごくトリッキーな人間だから、あの手、この手を使ってくると思うんです。五ェ門はそこにあっという間にはまりそうだなと。「いざ尋常に勝負」という空気になったとしても、ルパンだったら「こういうふうにしたら五ェ門も納得するだろ?」みたいなことまで考えていそうな気がします(笑)。
■『PART4』から2年と比較的短い間隔でスタートした『PART5』ですが、今回のシリーズについての印象を教えてください。
【浪川】 アニメが始まって40年、原作が始まって50年の節目を越えた作品。『ルパン三世』というのはそれぐらい長く愛されている作品です。多くの人が思っている『ルパン三世』のイメージって、誰もがやったことのある“ドロケイ”“ケイドロ”に通じるところがありますよね?「捕まるかな、捕まらないかな」ってハラハラさせて、でも、絶対捕まらないっていう、面白さ。銭形が最後に「ルパァン、逮捕だぁ!」と追ってくるっていうのを見て、「これこれ」って楽しむみたいな感じで、でも、今回の『PART5』は、そうではなくなっていたなと感じました。
■少し感触が違うシリーズだったと。
【浪川】 「あれ? ちょっとルパン、やばいんじゃない?」みたいな、「どうなるんだろう次は?」っていう印象のエピソードが多かったです。なにしろ今回のルパンって、結構撃たれてピンチになっているんです。そこがエピソードの引きになったりしているから、先の展開が読めないものも多くて、結構斬新というか、挑戦的なシリーズだと思いました。
■『PART5』は、単発エピソードでルパンのジャケットの色がいろいろ変わるという趣向もありました。それぞれ、その色のジャケットを着ていたころのエピソードという意味合いだそうですね。
【浪川】 そうなんですよ。ルパンのジャケットが変わるのに合わせて、こちらのトーンもそのたびごとに少し変えてほしいと言われました。僕はTVの五ェ門役として3代目ですが、話数によっては初代の大塚周夫さんと2代目の井上真樹夫さんの間ぐらいで演じてほしいという注文もありました。
■五ェ門がフィーチャーされた第12話「十三代目石川五ェ門散財ス」は赤ジャケットのエピソードでしたね。
【浪川】 あの回は、五ェ門というキャラクターを非常にフィーチャーしてくれて、うれしかったです。だからといってセリフがすごく増えるわけでもないのが五ェ門らしいんですが(笑)。ただ、ああいう五ェ門がどんな人間か、その深みが感じられるようなエピソードがあるとぐっとキャラクターが演じやすくなるんです。栗田(貫一)さんとも話したことがあるんですが、キャラクターに当たるスポットがピンポイントだと、どうしても「みんなが思うルパン」「みんなが思う五ェ門」を演じざるを得ない。ルパンなら「ふ~じこちゃん」という部分だけになってしまう。でも、もうちょっといろんなシチュエーションが出てくると、自分の中で安心感が出てくるというか、「こういうシーンの五ェ門を演じたのは自分しかいない」と思えることで、五ェ門が自分の中で“固まって”くるんです。五ェ門になってもう7年ですけれど、7年やってもやっぱりそういう感覚がありますね。
■7年演じてきて五ェ門というキャラクターとの距離は変わりましたか?
【浪川】 初年度から3年目ぐらいまでと比べたら、さすがに「五ェ門ってこういう感じだよな」というような気持ちは強くはなっています。でも一方で「どんな世代の方が見ても、五ェ門と思ってもらえるようなものを提供しなきゃいけない」というプレッシャーも変わらずあります。とはいっても「こんなんでごめんなさい」と思いながら演じるのもまた違うわけで。そういう揺れ動きは、7年経ってもありますし、これは一生消えないんじゃないかなと、今の段階では思っています。
■だからこそ、五ェ門のキャラクターがフィーチャーされると“固まる”感じがする、と。
【浪川】 そうなんです。『PART5』のように新たな面を見せてもらえると、自分の中から引き出さなくちゃならないものが増えるんです。そうすると、どうしても、自分が演じる五ェ門というものが前に立たざるを得なくなるんです。もちろんお客さんの前にはキャラクターが立っているのが前提なので、あくまで、自分の中での話ではあるんですが。……そういえば以前、山田康雄さんや井上真樹夫さんがTVに出てらっしゃる動画を偶然見たことがあるんです。そこで井上真樹夫さんが、ひとこと「石川五ェ門だ」って言うんですけど、それが、めっちゃ五ェ門なんですよ。ああいうふうになれたらいいなって、家のベッドで(笑)思ったことがありますね。
■そもそも五ェ門のオーディションにはどんな気持ちで臨まれたんでしょうか。
【浪川】 オーディションの期間はかなり長くて、1年ぐらいやっていたと思います。五ェ門を受けるにあたって、まず考えたのは自分の声質のことです。普段の僕は、ボワッとしたちょっとハスキーがかった声なんですが、五ェ門はもっとパキッとしているよな、と。それでものまねは苦手なんですが、まずは似せてみることから始めようかと、苦手なものまねをやるところから始めました。
(インタビュー/執筆:藤津亮太)
※今回掲載した前編に加え、未公開の後編を含めたインタビュー全文を2018年11月21日(水)に発売となる
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